大和部長を好きな手塚が好きだった。
いつの頃からだろう。きっかけは実は余り覚えていない。
ただ、気がつけば自然と自分の視線は彼の方ばかり追っていた。
入部した当初から彼は目立つ存在だったし、その外見も手伝って、
元々人の目を惹く雰囲気は、生まれながらにして持っていたのだと思う。
その賞賛に釣り合うだけの練習を、彼はしていた。
その羨望に釣り合うだけの努力を、彼はしていた。
いつしかそれが、濁った嫉妬に変わっていっても、そして暴力というものに形を変えても、彼は依然として態度を変えなかった。
大勢の上級生達に囲まれ手酷い暴行を受けても、彼は無言で耐え、終われば何事も無かったような顔で制服に着替え帰っていった。
「それ」が少し、不気味だった。
何の感情も生み出さない眉、瞳、唇。
怒りも、泣きもしない。ただ無言で服を着替える。
怖かった。何も映さない眼鏡の奥の黒い瞳が不気味だと思った。
不気味といえば、それを終始物陰からずっと見ている自分が一番不気味だけれど。
手塚に変化が訪れた時は、だからすぐに分かった。
誰よりも一番彼を見ていたのは自分だからだ。
おそらく、彼が想う相手以上に。
キミには青学テニス部の柱になってもらいます。
大和部長にそう云われてから、彼は変わった。
もとより多かった練習量は半端では無くなり、明らかに身体の限界を超えていた。それでも。
大和部長は何も云わなかった。
手塚は、練習に打ち込んでいる時の手塚は、ひどく幸せそうだった。
手塚は、何も云わない大和部長をずっと見ていた。
一人でぼろぼろになって、一人で腕を壊して、それでもずっと大和部長を見ていた。
幸せそうだった。けして報われない想いなのに。
そんな手塚を見るのが、たまらなかった。
たまらなく心地よくて、そして恐ろしいくらい嫉妬した。
大和部長を見る時の手塚の表情が好きだ。
大和部長と話す時の手塚の声が好きだ。
ただ一途に、盲信的に相手を慕う気持ち。
それを彼の無感情な瞳の中に見出した瞬間、また自分も幸せな気持ちになれるのだ。
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