『人間どもよ、お前達はいったいお互いから何を得ようと期待しているのだ』
『お前達の願うのは多分こんなことではないのか、
でき得る最大限度に一体となって活き、夜も昼も互いに離れずにいたいというような。
それが本当にお前達の念願なら、俺は喜んでお前達を一緒に鎔かし、一体に鍛接してやろうと思う、
そうすればお前達は二人が一人となって、生きている限りは、ただ一人の人間として生を共にし、
死んだら、彼世の冥府でも二人でなしに一人として生き、死においてもなお結び付いていることができるだろう。
さあ考えて御覧、これがお前達の希望なのか、またこうなればお前達は満足するのか』
(『饗宴』/プラトン著/岩波文庫刊)
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私は唯。
私を見て。
触って。
抱いて。
愛して欲しかったんです。
■■■存在消失。
それとなく、予感はしていた。
最高学年になり、最初のレギュラー決定戦があり。
■はその座から外れたが、自分達の知らない所でずっと。
何も語る事無くずっと努力を―――絶ゆまぬ努力をして。
二度目の決定戦で、再びレギュラーの座を勝ち取った。
■と試合をした時。
以前よりもずっと、自分の事を理解していた。
表情、クセ、力の度合い、ボールの角度、体力、精神力。
以前よりもずっと、自分の事を見ていてくれた。
嬉しかった。
けれど。
それとなく、予感はしていた。
初夏のある日、関東大会のオーダーについて話をしに来た■。
最初は少し、驚いた。
そして、それまで引き摺っていた予感はこの時初めて―――現実に変わった。
「うちは、ダブルスを強化する必要があるんだ」
■の眼鏡の奥の、表情が読めない。
「シングルスはお前達に任せる―――俺は海堂と、ダブルスに回るよ」
■の低く無感情な、声が読めない。
それでも。
その言葉の裏側に隠された想いだけは、痛いほど理解出来た。
■はこちらを見ない。
もう固執しない。知ろうとしない。
あの時。
痛めた肘を優しく撫でて呉れた■は、もう居ない。
唯漠然と予感は、していた。
こんな事、長くは続かないだろうと。
自分のような何の面白味も無い人間、絶対に好かれる筈は無いだろうと。
けれど嬉しかった。それだけは嘘じゃなかった。
想いを表情や言葉に出す事が不得手な自分を、■はきちんと理解して呉れた。
それなのに。
近づいたのは。
優しくしたのは。
愛してくれたのは。
―――――――――全て、データの為だったというのだろうか。
(手塚、お前は強い。)
やめろ。
(手塚、お前は俺が居なくても、)
やめろ。
(お前は俺が居なくても、―――独りでも生きていけるだろう?)
やめろ。
やめろ。
やめろ。
ヤメロ。
強さを履き違えないでくれ。
俺は全然強くない。
独りでなんて生きていけない。
「そういう」風にしたのはお前だ。
俺を変えたのは、お前だ。
それなのにどうして。
俺の傍から居なくなるというんだ?
俺の
傍から居なくなるのなら。
傍から離れようとするのなら。
そんな痛みをもたらすのなら。
そっと
首筋に
指を絡
めて力
を込め
るから
そのま
ま目を
閉じて
そして
静かに
息絶え
て呉れ
ないだ
ろうか。
息絶えるその最期の瞬間まで目に脳髄に焼き付けて。
愛しげにその首筋から頬に鼻に瞼に額に髪に触れて。
■は動かない。
■は離れない。
もうその無機質な瞳で自分を見ないけれど。
もうその筋張った指で自分に触れないけれど。
これなら、―――ずっと一緒。
■が自分を好きではなくても。
■が他の誰かを想っていても。
これなら、―――ずっと一緒。
自分の益の為に近づいた■。
■を殺して誰にも渡さない自分。
どちらが罪深い?
どちらが狂ってる?
このしつもんにかいとうなんてむいみだけど。
□END□