嘘みたいな 試合展開だった。

D2、S2が敗退。S3は試合続行不可能な為、ノーゲーム。



 「ゲームセット!ウォンバイ氷帝学園跡部!ゲームカウント7−6!!」



そして、気が遠くなりそうな程の、長い、長い戦い。

勝利を収めたのは、跡部部長だ。

けれど、決着をつけるのは、この俺だ。

試合に負けた奴は即レギュラーから外される。

忍足先輩も、向日先輩も、芥川先輩も、そして樺地も。

その分、チャンスが増えたという訳だ。

俺が勝てば、次の試合必ずレギュラー入り出来るだろう。

下克上。

いい言葉じゃないか。

実力主義。

当然の事だろう。

上着を脱ぐ。ラケットを持つ。前を見据える。

コートに一歩足を踏み入れると、先程までの接戦の余韻が身体を伝った。

ゾクリ、と肌が粟立つ。

それが何なのか、理解出来なかった。

グリップを握り直す。じわりと掌に汗が滲む。その感触が気持ち悪い。

 「日吉、出番だ。行って来い」

 「はい」

近くに居る筈の監督の声が、やけに遠くで聞こえた。

雨のように降り注ぐ喚声。それは強く、重く、圧力をもって襲い掛かる。

俺が勝つ。

氷帝学園の勝利で、この試合を終わらせる。

耳許で響く心臓の音がやけに煩い。


煩い。


気が散る。


俺が



心臓の音が




俺が勝つんだ。












あぁ、本当に煩い。








 「いーか日吉!」








瞬間。

暗闇だった視界が、急に拓ける。

あれ程煩かった心臓の音よりも大きな音が、鼓膜を震わせた。

反射的に振り返ると、

 「奴らは最後まで侮れねぇ!!」

緒戦で負けた向日岳人が、身を乗り出して叫んでいた。

叫んでいる、と言うより怒鳴っている。と言った方が正しいか。

(相手を侮った結果負けた人が言う台詞ですか…)

何となく可笑しくて、無意識に次の言葉を待っていた。

彼は大きく息を吸う。そして一際大きな声で、

 「お前なら大丈夫だと思うけど絶対勝て!!」

余り見た事の無い真剣な表情で、―――そう言ったのだ。

 「いいな!!」

ビシ!と音がする程勢い良く指を差され、

その屈託の無い、突き刺すような真っ直ぐな視線を受けて。

 「分かりました」

自然とそんな言葉が、口から漏れていた。

それを確認して、彼が満足そうにニッと笑う。

自分の中で蟠っていた難解な数式が、解けた気がした。

グリップを強く握る。

大丈夫。

俺は勝つ。










――――――――――勝つ。

 

□END□

日吉の決心。